第4章 質量はエネルギーである


【わかっても相対論 第4章 質量はエネルギーである】

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1.質量保存の法則とエネルギー保存の法則

おそらく、特殊相対性理論において、最も有名な事柄が「質量エネルギーである」という事実であろうと思う。そして「質量はエネルギーである」って何?という人でも、「$\bf{E=mc^2}$」といえば、聞いたことくらいはあるはずである。

それほど有名な「$E=mc^2$」なのであるが、この式を初心者でも腑に落ちるように記述した解説というものになかなかお目にかかったことがない。相対論の入門書のような本では、これをきちんと説明せずに、いきなり金科玉条のように持ち出すものが多い(ように思う)。
まるで、「$E=mc^2$」は、黄門様の印籠のようである。
「ええーい、$\bf{E=mc^2}$ をなんと心得る、頭が高〜い、控えおろう!」
というところである。

しかし私は、これは、かなり大きな問題であると思っている。

「$E=mc^2$」が、特殊相対論においていかなる必然を持って現れるのかを、誰も説明してくれないからだ。この必然を初心者に納得してもらえなければ、「わかっても相対論」などという、まことしやかなタイトルのホームページを作っている意味がない、とさえ言えるほどである。

そこで、私はこの章で、「質量はエネルギーである」ことを、皆さんに納得してもらえるように説明をするわけなのだが、その前に質量というものについて考えておきたい。

みなさんは、「質量保存の法則」というのを、中学の頃習ったと思う。そして高校で「エネルギー保存の法則」というのも習ったはずである。(高校1年の「基礎物理」の段階では、エネルギーとは何かをきちんと理解できなかったかもしれないが。)
ただ、「質量はエネルギー」である、ということは、「質量はエネルギーに変わるし、エネルギーは質量に変わる」ということと同義なので、厳密に言うと、「質量もエネルギーも保存しない」ことになる。これでは大混乱必至なので、「質量は、エネルギーの一形態である」と考えて、「エネルギー保存の法則」が正しく、「質量は保存しない場合(エネルギーに変わってしまう)がある」と説明しておこう。

質量がエネルギーだなんて、そして、「質量保存の法則」が嘘だなんて、聞いたことがないぞ、という人も多いと思う。しかし、現実には、一般にエネルギーが発生している場合、その源は質量なのだ。
このように断言してしまうと、「質量はエネルギーである」ということを知っていた人であってもちょっと不安になるかもしれない。
しかし、中学のころ習った「どんな化学反応においても、反応前の物質の質量の総和と反応後の物質の総和は等しい」というのは間違いなのである。「中学の理科では、嘘を教えているのか?」と、疑問を持つ人もいると思うが、厳密にはそのとおりなのだ。

余談
わたしたちは、高校物理でも、基本的にはニュートン力学しか習っていない。「相対論」と「量子論」は、最近では高校物理でも名前だけは出てくるようであるが、その概念の説明が抜けている。名前だけ教わっても、その意味するところ(ニュートン力学との本質的な違い)が納得されなければ身についたことにはならないのだから、これは問題だ。なぜなら、「理科」でなく独り立ちした「物理学」とは、高校で縁が切れてしまう人も多いはずで、その人たちは厳密に言えば宇宙の真実を知らないままなのだ。


閑話休題
どんな化学反応においても、結果として熱(エネルギー)を発する場合、反応前と反応後の質量の総和は反応後の方がわずかに小さい。逆に、その反応が熱を奪う(温度を下げる)反応であれば、反応後の質量の方が大きい。
えっ!と思う人が多いはずである。質量がエネルギーに変わることを知っていた人でも、それは、核反応レベルの話だと思っていたであろう。しかし違う。

エネルギーが発生するときは、必ず質量が失われている。逆にエネルギーが失われた場合は、その分質量が生まれている。(ただ、エネルギーには様々な形態があるので、それには留意する必要がある。)

化学反応程度では関わる質量が非常に(というか、極端に)微量なので、「質量は保存する」と教わるが、正しくは「質量保存則」は嘘で「エネルギー保存則」だけが正しいのである。

ただし、この事実は認められても、「$\bf{E=mc^2}$」などという極めてシンプルで美しい関係が、質量とエネルギーの間に成立することを信じられないと言うへそ曲がりも、たまにいる。私がこのホームページを立ち上げようと思ったきっかけは、そのへそ曲がりに、なぜシンプルな換算式が成立するのかを納得させたかったからだ。
何度か述べているが、物理理論とは信ずるか信じないかという次元の話ではない。この宇宙がどのように成り立っているかを客観的に説明し、それがとりあえず間違っていないことを検証し続ける学問なのである。

それについて、これから説明する。そして、エネルギーや、質量の本質とはなんなのか、についても触れて行くつもりである。

一言いいたい!





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2.四元物理量

ここで唐突に「四元物理量」の話をしようと思っているのだが、四元物理量とは、空間(3次元)と時間(1次元)を同じ土俵の上で、時空間(4次元)として取り扱う時に現れる物理量のことである。

前項までに登場した、時空間での位置を表すもの、$\bf{(ct, x, y, z)}$ は、位置の四元物理量と呼ぶことができて、時空間内で離れた二点間の距離を($S$)で表すと、 \begin{eqnarray} \bf{S^2 = (ct)^2 - (x^2 + y^2 + z^2)} \end{eqnarray} という、4次元のピタゴラスの定理が成立することを、前項までで述べてきたのだから、もう既に四元物理量は登場していたのだ。

なに、第2章で出てきたのと式が変わっている? と気づいた人がいるかもしれない。よいのだ。($S$)は、もともと不変量として定義したものだから、符号をひっくり返したものと同じと言ってもなんら問題はない。尚、座標の表現も、時間を最初に持ってきた。(これは、第3章で詳しく説明しているので、気になった人は戻って読み直してください。)

空間と時間を一緒に扱うことで、四元物理量を四つの値の組で表そうとすれば、その値の単位を合わせておいたほうが、取り扱い易い。四元位置$\bf{(ct, x, y, z)}$の時間部分を、時間に光速度を掛けて、位置(長さ)の単位に合わせたのはそのためであった。

念のために補足しておくと、時間の項に($ct$)を採用するとどんなよいことがあるのかは、『第3章 ローレンツ変換と時空距離 4.ローレンツ変換』を読んでもらえればわかってもらえるようになっている。

物理で力学を取り扱うと、「位置」の次に出てくる物理量は、「速度」ということになっている。速度というのは、単位時間内に物体が走る距離のことである。従って距離を時間で割ったものが速度ということになる。つまり、移動する距離が長いほど、そしてかかる時間が短いほど、速度は大きくなる。

さて、その次には、「運動量」という物理量が登場する。これは、わかりやすく言うと(厳密には正確ではないが)、物体の勢いを示す量である。同じ交通事故に遭うなら、トラックより軽自動車にぶつかったほうが被害は少ない。これは相手の質量(重さ)の問題である。そして、同じ軽自動車に衝突するのなら、相手のスピードが遅いほど被害は少ない。こっちは速度(速さ)の問題である。
つまり、物体の運動量(勢い)は、質量が大きいほど、そして速度が大きいほど大きいものである。そこで、運動量を、質量に速度を掛けたものと定義する。

この項では、ここまでを確認しておくにとどめる。
この時点で、四元物理量が、なぜ「質量=エネルギー」の話に繋がるのか理解できなくても問題ない。この章では、それが皆さんに理解できるように話を進めて行く。



一言いいたい!





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3.四元速度

前項で「速度」の話をしたときに、速度とは、「空間(距離)」を「時間」で割ったものであると私は言った。
しかし、4次元時空間では、空間も時間も距離の単位で同じ土俵にいるのだから、これら四つの距離を割るべき時間とは何なのだろうかという疑問が湧く。

そもそも、4次元時空において、物体が互いに相対速度を持つとき、相手の距離や時間は、自分が測るそれとは違って観測されるのであったことを思い出してもらいたい。
そして、自分と相手との間には、相対速度しかないという前提に立てば、そもそも4次元時空における速度とはいったい何なのかという話にもなってくる。
だとすれば、四元距離(位置)のときに導いた不変距離($S$)のような、相対速度を持ったどのような慣性系でも不変になるような時空間での速度を探してみて、四元速度を定義してみるしかないだろう。

そのような速度を今、
$\large{(U_{ct}, U_x, U_y, U_z)}$
と書いてみる。
これを求める手がかりは、四元距離で出てきた不変量、 \begin{eqnarray} S^2 = (ct)^2 - (x^2 + y^2 + z^2) \end{eqnarray} に頼るしかないと思われる。
そのためには、この距離の不変量を何らかの「時間」で割って、速度を作ってやらなければならない。
しかし、この式に出てくる時間($t$)は、相対速度を持つ相手と自分では異なった進み方をするものだから、同じ時間を使うためには、ここは妥協して、自分が相手と同じ速度になってやるしかない。これは、つまり相手との相対速度をゼロにするということである。
相手との相対速度がゼロであれば、自分が持っている時計と、相手が持っている時計は同じ進みとなる。こんな話をするとかえってややこしい、と思う人は、自分と自分が持っている時計を考えてみればいい。自分と自分が持っている時計は間違いなく相対速度ゼロなのだから、自分自身の時間の進みと間違いなく等しいという信用に値する時計はその時計しかないわけである。

自分と、自分が持っている時計は、いくら時間が過ぎても自分と共にある。つまり空間的移動距離はゼロである。よって、四元距離の不変式で、$(x=0、y=0、z=0)$としてやれば、 \begin{eqnarray} S^2 &=& (ct)^2 より \\ S &=& ct  が言えて \\ \frac{S}{c} &=& t   となる \end{eqnarray} $(S)$も$(c)$も不変量(一定値)なのだから、結局は、自分が持っている時計は、$(\frac{S}{c})$という不変の時を刻む。これはどんな慣性系にいる誰にとっても言えることである。
難しく考えないように。相対速度がゼロの相手の時計は、自分と進み方が同じで、それは、$t=(\frac{S}{c})$であるということだ。
誰にとってもこれが成立するので、この($\frac{S}{c}$)を「固有時間」と呼ぶことにし、簡略のため($\tau$ :タウ)で記載する。

不変な固有時間が定義できたので、いよいよ速度の不変式に移る。
任意の慣性系において、時空距離の不変式を固有時間(の2乗)で割ってみる。
\begin{eqnarray} \frac{S^2}{{\tau}^2} &=& \frac{(ct)^2}{{\tau}^2} - (\frac{x^2}{{\tau}^2} + \frac{y^2}{{\tau}^2} + \frac{z^2}{{\tau}^2}) \\ \\ \tau &=& \frac{S}{c} なので \frac{S}{\tau} = c を考慮すれば \\ \\ c^2 &=& \frac{(ct)^2}{{\tau}^2} - (\frac{x^2}{{\tau}^2} + \frac{y^2}{{\tau}^2} + \frac{z^2}{{\tau}^2}) \end{eqnarray} というすっきりした式がでてきた。

これが速度の不変式である。時空間の距離を固有時間で割ったものを項として、その2乗が、速度の不変式として導かれ、その不変量は、光速(の2乗)になるのである。
元々、相対論では、誰が測定しても光速は不変であるという原理から出発しているのだから、四元速度の不変量として光速が登場するのは、極めて当たり前と言えるだろう。

よって、「四元速度は、四元距離を固有時間で割ったもの」と定義され \begin{eqnarray} &U_{ct}& = \frac{ct}{\tau} \\ &U_x& = \frac{x}{\tau} \\ &U_y& = \frac{y}{\tau} \\ &U_z& = \frac{z}{\tau} \\ \\ &(U_{ct}&, U_x, U_y, U_z) = (\frac{ct}{\tau}, \frac{x}{\tau}, \frac{y}{\tau}, \frac{z}{\tau}) \end{eqnarray} となるのであり、速度の不変量は光速度($c$)なのである。
これで終わりにしてもよいのであるが、少し興味深い事実があるので、以下に紹介しておく。

もう一度、距離の不変式(4次元のピタゴラス定理)に戻り、両辺を($ct$)の2乗で割ってみよう。
わかり易さのために、($ct$)を$w$という記号で表すことにする。 \begin{eqnarray} S^2 &=& (ct)^2 - (x^2 + y^2 + z^2) \\ &&両辺をw^2で割ると \\ \frac{S^2}{w^2} &=& \frac{w^2}{w^2} - (\frac{x^2}{w^2} + \frac{y^2}{w^2} + \frac{z^2}{w^2}) \\ \\ (\frac{S}{w})^2 &=& 1 - \{(\frac{x}{w})^2 + (\frac{y}{w})^2 + (\frac{z}{w})^2\} \\ &=& 1 - \frac{1}{c^2}\{(\frac{x}{t})^2 + (\frac{y}{t})^2 +(\frac{z}{t})^2)\} \end{eqnarray} { }の中は、通常の3次元空間における距離を1次元の時間で割ったもの(の2乗)なので、これは自分と相手との相対速度であり、次のように書ける。 \begin{eqnarray} (\frac{S}{w})^2 &=& 1 - \frac{1}{c^2}\{(\frac{x}{t})^2 + (\frac{y}{t})^2 +(\frac{z}{t})^2)\} \\ &=& 1 - \frac{1}{c^2}(v_x^2 + v_y^2 +v_z^2) \\ &=& 1 - \frac{v^2}{c^2} \\ \\ \frac{S}{w} &=& \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}} \\ &ひ&っくり返す(逆数をとる)と \\ \frac{w}{S} &=& \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}} \end{eqnarray} さて、最後の式の右辺である。どこかで見たことないかな。

そう、ローレンツ因子(\(\gamma~\))になっている。

そこで、固有時間を元の($\frac{S}{c}$)に戻し、$ct$と$w$が同じものであることを考慮して、四元速度の各要素を書き直してみると、 \begin{eqnarray} &&U_{ct} &=& \frac{ct}{\tau} &=& \frac{ct}{\frac{S}{c}} &=& c{\frac{w}{S}} & & &=& \gamma~c \\ \\ &&U_x &=& \frac{x}{\tau} &=& \frac{x}{\frac{S}{c}} &=& c{\frac{w}{S}}{\frac{x}{w}} &=& c\gamma~\frac{x}{ct} &=& \gamma~v_x \\ \\ &&U_y &=& \frac{y}{\tau} &=& \frac{y}{\frac{S}{c}} &=& c{\frac{w}{S}}{\frac{y}{w}} &=& c\gamma~\frac{y}{ct} &=& \gamma~v_y \\ \\ &&U_z &=& \frac{z}{\tau} &=& \frac{z}{\frac{S}{c}} &=& c{\frac{w}{S}}{\frac{z}{w}} &=& c\gamma~\frac{z}{ct} &=& \gamma~v_z \end{eqnarray} \begin{eqnarray} (U_{ct},~U_x,~U_y,~U_z) = (\gamma~c,~\gamma~v_x,~\gamma~v_y,~\gamma~v_z) \end{eqnarray} これが結論である。
四元速度は、相手との相対速度にローレンツ因子を掛けたものになる。時間の項は、光速にローレンツ因子が掛かる。

そして、四元速度の不変式は次のようにも書ける。 \begin{eqnarray} c^2 = \gamma~^2\{c^2-(v_x^2+v_y^2+v_z^2)\} \end{eqnarray} これって、美しくないですかね。

一言いいたい!





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4.四元運動量から $E=mc^2$ へ

次に考える物理量は、「運動量」である。
第2章でも説明した通り、「運動量」の定義は、「質量」×「速度」である。この量は、物体の衝突のときに、よく引き合いに出される。物体が何かに衝突するとき、相手に与える衝撃は、質量が大きいほど強く、速度が大きいほど激しい。これは、経験で誰でも知っている。

同じ速さなら、小錦に体当たりされるより、舞の海に体当たりされたほうが、吹っ飛ぶ距離は短いであろう。これは質量の話。
同じ質量なら全力疾走のウサイン・ボルトより、歩いているウサイン・ボルトに体当たりされたほうが、ダメージは小さいだろう。これは速度の問題。(引き合いに出す方々が古いのは、私がおじさんだから勘弁願いたい。)

まあ、簡単に言えば、運動量というのは、物体の運動の勢いを量にしたものと言ってよいだろう。
但し、以上の話は空間方向に動く物体の運動量の話である。時間方向の運動量とは何であるかは、まだわかっていない。

四元運動量の話に入る前に、四元距離と四元速度のおさらいをしておきたい。
それぞれの不変量は、 \begin{eqnarray} S^2 &=& (ct)^2-(x^2+y^2+z^2) \\ c^2 &=& \gamma~^2\{c^2 - (v_x^2 + v_y^2 + v_z^2)\} \end{eqnarray}    $\gamma~$:ローレンツ因子

となっていた。

$(S)$は時空距離であり、4次元時空の二点間の不変距離である。
そして、$(c)$は光速なのだが、これは、時空速度と呼んでもよいものであり、4次元時空の不変な速度となっている。
四元距離にも、四元速度にも、このように、どんな慣性系においても変わらない不変量がある。

ならば、四元運動量にも不変式が存在するだろう、という仮定の下に、四元物理量としての運動量(四元運動量)を考えてみよう。

前項の結論として、四元速度$(U_{ct},~U_x~,U_y~,U_z~)$は、 \begin{eqnarray} U_{ct} &=& \gamma~c \\ U_x &=& \gamma~v_x \\ U_x &=& \gamma~v_y \\ U_x &=& \gamma~v_z \end{eqnarray} ということがわかっている。

3次元空間における「運動量」とは、物体の「速度」に「質量」を掛けたものだったのだから、時間方向の運動量にも、速度の時間成分に質量を掛けてみよう。
四元運動量を$(p_{ct},~p_x,~p_y,~p_z)$と記述すれば、($m$)を質量として四元運動量は次のようになる。
\begin{eqnarray} p_{ct} &=& \gamma~mc \\ p_x &=& \gamma~mv_x \\ p_y &=& \gamma~mv_y \\ p_z &=& \gamma~mv_z \end{eqnarray} $~p_x,~p_y,~p_z~$については、我々のよく知っている運動量に、「ローレンツ因子」を掛けたものであるから、これを空間部分の運動量と考えることに抵抗はないはずだ。

問題は、$p_{ct}~$である。物体の四元運動量における時間成分だ、といってしまえばそれまでなのだが、これが意味するものを深掘りしてみると凄いことがわかるのである。

($\gamma$)は、無次元(単位はない)だから、$(\gamma~mc)$は、質量に光速度を掛けたものであり、単位としては運動量で間違いない。
(1)四元位置における時間成分は、光速に物体が刻む時間を掛けたものであった。
(2)四元速度における時間成分は、光速そのものであった。
ここからわかるのは、物体というのは3次元空間で動いていなくても、時間方向には光速で移動しているのである。
とすれば、運動量に関しても次のことが言える。
(3)四元運動量における時間成分は、光速で移動するものの勢いである。
つまり、物体は空間的に動いていなくとも、時間方向には光速で動いたときの(ような)運動量を持つのである。であれば、それは光の速度$(c)$に物体の質量を掛けたものであるはずだ。
こう考えてくると、運動量の時間成分が、($\gamma~mc$)であることには整合性がある。

ここで思い出してもらいたいことがある。
『第2章 はじめに光速度ありき 2.コンプトン効果:光の運動量』で書いたことだ。光の運動量というものを、ここで考察した。アインシュタインが導出し、コンプトンが証明した式である。 \begin{eqnarray} p=\frac{E}{c} \end{eqnarray} である。
光の運動量とは、光のエネルギーを光速で割ったものなのである。
よって、光速で時間方向に移動する物体の運動量を、$p_{ct}=\frac{E}{c}$と考えたらどうなるか。
\begin{eqnarray} p_{ct}=\gamma~mc=\frac{E}{c} \end{eqnarray} である。書き直せば \begin{eqnarray} E=\gamma~mc^2 \end{eqnarray} と書くことができる。
さて、ここで($\gamma$)とは、ローレンツ因子で \begin{eqnarray} \frac{1}{\sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}} \end{eqnarray} のことなのだから、相対速度($v$)がゼロであれば、($\gamma$)は $1$ になる。よって、自分に対して相対速度がゼロの物体が持つエネルギーは \begin{eqnarray} E=mc^2 \end{eqnarray} となる。ここは、皆さん、大いに驚いてもらいたい。

自分に対して相対速度ゼロの物体は、運動エネルギーを持っていない。それなのにエネルギーはゼロではないというのだ。止まっているのに、(質量)に(光速)の2乗を掛けた値のエネルギーがそこにある、ということになる。これは、4次元時空における、時間方向の運動量に由来するエネルギーなのである。

先へ進む前に整理しておこう。
四元運動量は \begin{eqnarray} (p_{ct},~p_x,~p_y,~p_z) &=& (\gamma~mc,~\gamma~mv_x,~\gamma~mv_y,~\gamma~mv_z) \\ &=& (\gamma~\frac{E}{c},~\gamma~mv_x,~\gamma~mv_y,~\gamma~mv_z) \end{eqnarray} と表現できて、不変量は速度の不変式に質量(の2乗)を掛けて \begin{eqnarray} m^2c^2 = \gamma~^2\{m^2c^2-(m^2v_x^2+m^2v_y^2+m^2v_z^2)\} = \gamma~^2(m^2c^2-m^2v^2) \end{eqnarray} であり、もしも物体が自分に対して静止していれば \begin{eqnarray} m^2c^2 = m^2c^2 \end{eqnarray} という、なんともあったり前の式になる。そしてこの時、運動量($mc$)に光速($c$)を掛けた($mc^2$)とは、静止物体が持つエネルギーなのである。
いちいち自分に対して静止している物体の質量とことわりを入れるのも面倒なので、これを$m_0$と書き、「静止質量」と呼ぶことにすると \begin{eqnarray} E = m_0c^2 \end{eqnarray} となり、止まっている物体は、その質量に光速の2乗を掛けた膨大な量のエネルギーを持っていることになってしまう。つまり、質量というものは、それ自体が巨大なエネルギーなのである。

光速($c$)は、30万km/秒というとてつもなく大きい速度なのだから、たとえ質量が$1g$(一円玉くらいの質量)であったとしても、その質量由来のエネルギーは、ものすごいものになる。
実感してみよう。

1円玉($\frac{1}{1000}kg$)を全て、エネルギーに変えたらどのくらいになるか?
$E=m_0c^2$に当てはめてみよう。
\begin{eqnarray} E &=& \frac{1}{1000}(kg)×300000000^2(m/秒の2乗) \\ &=& 9×10^{13}(J) \end{eqnarray} $(J)$は、ジュールと読み、エネルギーの単位であるが、その量を実感するのはなかなか難しいので、よくご存じのカロリー$(cal)$で表してみよう。$1cal$のエネルギーとは、$1g(1ml)$の水の温度を$1°C$だけ上昇させるものとして定義されている。
\begin{eqnarray} 1(J)=\frac{1}{4.18605}(cal) なので \\ 9×10^{13}(J)\approx~2.15×10^{13}(cal) \end{eqnarray} ということになる。
数値だけでは、まだ実感がわかないので、ちょっと数値の見方を変えて \begin{eqnarray} 2.15×10^{13}=100×215×10^9(cal) \end{eqnarray} と書き換えてみよう。 $10^9(g)$の水とは、$10^6(g)$つまり$1トン$の水の$1000$倍であるから、一辺$10m$の水の立方体である。ということは、$100×215×10^9(cal)$とは、凍る寸前の$0°C$の一辺$10(m)$水の塊$215$個を$100°C$、つまり沸騰直前まで上昇させるエネルギーということになる。

これはすごい!1円玉1個はこれだけのエネルギーなのである。
(ちなみに、これは石油を10万トン燃やしたエネルギーに相当する。)

実は、広島・長崎に落とされた原爆の質量欠損(質量がエネルギーに変わった分量)が約$1g$なのだ。1円玉2個で日本は、無条件降伏に追い込まれたことになる。

こんなエピソードがある。
日本で原爆が使われたことを聞いたアインシュタインは、ドイツ語で「オー・ヴェー!」と叫んだと言われる。英語の「Oh my God!」であろうか。原爆によって、$E=m_0c^2$が実感できたというのは、人類にとっても、まさに痛ましいことであった。

一言いいたい!





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5.真実のエネルギー

前項では、物体の相対速度がゼロ、つまり自分にとって静止している物体のエネルギーを考察した。この項では、相対速度がゼロでない物体のエネルギーがどのようになるかを考えてみることにする。

四元運動量の時間成分は、($p_時=\gamma~mc$)、空間成分は($p_空=\gamma~mv$)で表せることは、これまでに説明した。
今回は物体との相対速度($v$)がゼロでない場合を考える。但し、相対速度($v$)が光速($c$)に比べて大きくない場合を考える。つまり($c\gg~v$)というケースである。
空間成分($p_空=\gamma~mv$)については、($c\gg~v$)の場合、ローレンツ因子($\gamma$)は、ほぼ $1$ に等しいので \begin{eqnarray} p_空~\approx~mv \\ \end{eqnarray} であり、ニュートン力学の運動量と同じになる。

時間成分($p_時=\gamma~mc$)については、ローレンツ因子に光速を掛けるので、($\gamma$)を単純に $1$ と見なすには無理がある。
そこで、マクローリン展開というものを使用する。
あらゆる関数は、徐々に小さな値となって行く多項式の和(級数)で表現することができて、この無限級数の収束度合いが大きい(多項式の和が変わらなくなる数が少ない)と、その関数の近似値を求めるのに便利である。マクローリン展開も、そういった級数のひとつである。
細かい説明は他に譲るが、この展開を用いて、ローレンツ因子($\gamma$)を近似してみる。
ローレンツ因子は \begin{eqnarray} \gamma = \frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} \end{eqnarray} であり、今($\frac{v}{c}$)を($\beta$)と置けば \begin{eqnarray} \gamma = \frac{1}{\sqrt{1-\beta~^2}} \end{eqnarray} となる。この($\beta$)を変数として($\gamma$)をマクローリン展開してやると \begin{eqnarray} \gamma = 1 + \frac{1}{2}\beta~^2 + \frac{3}{8}\beta~^4 + \frac{5}{16}\beta~^6 + \frac{35}{128}\beta~^8 + ・・・ \end{eqnarray} と書くことができる。この場合のマクローリン展開は、収束が早いので、第二項までで近似してみる。すると \begin{eqnarray} \gamma~\approx~1 + \frac{1}{2}\beta^2 \end{eqnarray} である。今求めたいのは($\gamma~mc$)であるから \begin{eqnarray} \gamma~mc &\approx& (1 + \frac{1}{2}\beta^2)mc \\ &=& mc + \frac{1}{2}mc\beta~^2 \\ &=& mc + \frac{1}{2}mc\frac{v^2}{c^2} \\ &=& mc + \frac{1}{2}m\frac{v^2}{c} \end{eqnarray} となる。
ここで、両辺に($c$)を掛けてエネルギーを作ってみると \begin{eqnarray} \gamma~mc^2 &\approx& mc^2 + \frac{1}{2}mv^2 \end{eqnarray} が得られる。
第一項の($mc^2$)は、前項で出てきた通りだが、第二項($\frac{1}{2}mv^2$)に見覚えはないだろうか。
そう、これはニュートン力学に登場する運動エネルギーと同じものなのである。
つまり、($c\gg~v$)という条件の元では、物質のエネルギーは、質量由来の($mc^2$)と運動エネルギー($\frac{1}{2}mv^2$)の和になるのだ。 ここまで見てくれば、相対論でいう($E=mc^2$)の意味が、腑に落ちたのではないだろうか。

最後に、四元運動量を時間成分($p_時$)と空間成分($p_空$)で記述したとき、どう記述できるか確認しておこう。 \begin{eqnarray} m^2c^2 &=& \gamma~^2m^2\{c^2-(v_x^2+v_y^2+v_z^2)\} \\ &=& \gamma~^2m^2c^2- \gamma~^2m^2v^2 \\ &=& p_時^2 - p_空^2 \end{eqnarray} ここで、($p_時$)が、($\frac{E}{c}$)であったことを考えれば \begin{eqnarray} m^2c^2 &=& p_時^2 - p_空^2 \\ &=& (\frac{E}{c})^2 - p_空^2 \end{eqnarray} よって \begin{eqnarray} (\frac{E}{c})^2 = m^2c^2 + p_空~^2 \\ E^2 = m^2c^4 + (cp_空)^2 \end{eqnarray} ということになる。
($p_空$)というのが、我々が認識するいわゆる運動量なので、単に($p$)で表現すれば \begin{eqnarray} E^2 = m^2c^4 + (cp)^2 \end{eqnarray} が得られる。
($c\gg~v$)という条件で得られた近似式($E=mc^2+\frac{1}{2}mv^2$)は、厳密には上式で表されるものなのである。


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