なにはさておき量子論 終章

【なにはさておき量子論 終章】

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量子論を知って驚くことが二つある。

一つは「不確定性原理」である。これは、決定論を覆した。いかなる瞬間でも、未来は決定されていない。
粒子の「位置の幅$(\Delta x)$」と「運動量の幅($\Delta p)$」は同時にゼロにはできない。この事実が未来を不確定にする。なぜなら、ある瞬間の粒子の居場所と行く先がわからないと言っているのだから。
ある瞬間の粒子の状態とは、波動関数という幽霊波で表現されるものだった。波動関数には虚数項が含まれるために、関数自体が観測にかかるわけではない。ところが、波動関数を2乗すると、それは粒子がどこに存在するかの確率となることが示された。観測されるまでは、粒子というものはどこに存在するのかさえ確率的にしか理解できないものだった。
あまり嬉しくはない結論である。我々の意志が未来を変えることができる、ということではなく、未来は、「神がさいころを振って」決まるものであったということだ。
人間の脳内のシナプス間を飛び回る電子の動く確率が未来を決めている、という意味で、あなたが未来を決めている、と考えるのは一つの解釈である。マクロにはそう見えても、個々の電子は意志で行く先を決めるわけではない。
未来は決定されていない、その事実にあなたは安堵するだろうか、それとも狼狽するだろうか

二つ目である。
量子が絡みあった場合、その相関は、この宇宙全体を一つの系にする。
意味がわからなかったかもしれない。本文内で使った言葉で言いかえれば、EPR相関を持った粒子は、どんなに離れても、一方の粒子の観測によって、他方の粒子の状態を決めてしまう、ということである。
そのように言ってもまだ、「それがなんだ」と思う人が必ずいるに違いない。しかしこの事実は、非常なる驚異なのである。
あなたが、何かを観測するという行為は、全宇宙に影響するかもしれない、ということだからだ。
宇宙の彼方で相関を持った光が遥かに旅をして地球にやってきた。その光をあなたが見た。夜空に煌めく星々の輝きをあなたは見ている。ところが、その星の光をあなたが見たという事実が、宇宙の彼方にいる別の粒子に影響を与える、と言っているのだ。
そのように宇宙はできている。

このように、我々の考え方に革命的な影響をもたらした量子論であるが、実はその恩恵は計り知れない。量子論なしには現在の電子工学の産物はほとんど存在しない。トンネルダイオードを持ち出す以前に、そもそも金属中を動く自由電子の特性は、波動関数なしには説明できない。
あなたが今使用している電化製品は全て量子論から生まれたものと断言できる。
遠いようで身近なもの、それが量子論である。

量子論は、「シュレーディンガーの猫」に代表されるような、未だに結論が出ていないような解釈の問題を残しながら、実用面では大きな成果を上げる一面も持っている。
そのような議論を経ながら、量子論は現代物理の基礎理論としてあらゆる分野に必要とされるようになった。素粒子論や、宇宙論も量子論なしには論ずることはできない。

最後に、言っておきたい。

量子論の面白さは、物理学の分野では群を抜いている。量子論を知ることをきっかけとして、みなさんに物理に興味を持っていただき、そこを起点として更に先の世界に進んでいただきたいのである。


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